慟哭の夏
ひだまり通信9月号「百花繚乱日記コラム」より転載
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「慟哭の夏」
六月二十三日の沖縄慰霊の日、八月六日広島原爆の日、九日長崎原爆の日、そして、八月十五日の終戦記念日。我が国日本では、夏はあの太平洋戦争の記憶を振り返る季節でもある。そんな真夏のとある日、私はひょんな事情から、かねてより訪ねてみたかった鹿児島県知覧町をひとり訪れることになった。ご存知の方も多いと思うが、知覧町と言えば、太平洋戦争末期、劣勢だった戦況を反転させるべく、人類史上類のない爆弾を抱えた飛行機もろとも敵艦に体当たりした特攻隊の資料が展示されている知覧特攻平和会館のある街である。ローカルバスを乗り継いで、私がその場所にたどり着いたのは、じっと立っているだけでも汗がにじみ出るような暑さの八月の午後だった。
そこには、死が確実な片道だけの燃料を積んだ戦闘機に乗って、桜島に昇る朝日を背に沖縄に向かった青年たちの勇ましくも悲しい辞世の句が所狭しと展示されている。まだ二十歳前後の彼らが飛び立つ前に家族に残した遺書の数々に、私は泣きながら館内を歩いた。父母への感謝とお詫び、兄弟たちへの思い、妻や恋人への惜別の言葉、そして、故郷に残してきた幼い子どもたちへの言葉。特攻隊員として太平洋に散った千三十六名の青年たちの、時が今ならば青春を謳歌しているはずの前途ある青年たちの、誇りと無念に満ちた切ないほどの壮絶な思いに圧倒されながら、私は閉館まで時を過ごした。
最も悲しかったのは、出撃前日に撮られた写真の中で、死を目前にしているとは思えないような無邪気な笑顔を彼らが見せていることである。特攻の母と呼ばれた鳥濱トメさんの証言によれば、一人として逃げ出す者はいなかったそうだ。もしかすると彼らの中には、いづれ日本が負けることを感じていた隊員もいたのかもしれない。それでも彼らの命と引き換えに行う特攻が敗戦後の日本復興の時に多くの日本人に勇気と誇りを与えることだけを祈って若い命を捧げたという。誰も恨まず、文句も言わず、ただ感謝だけを言葉にして、遺骨さえ拾ってもらえぬ南の海に笑顔で飛び立ったのである。
今でこそ「なでしこ」と言えば女子サッカー日本代表を意味しているが、特攻隊員たちの身の回りの世話をしていた知覧高等女学校三年生の勤労女子学生が「なでしこ部隊」と呼ばれていた事実を知る人は少ない。
成人を迎える若い人たちに、人生の節目として「知覧」を訪ねることをお勧めしたい。
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「慟哭の夏」
六月二十三日の沖縄慰霊の日、八月六日広島原爆の日、九日長崎原爆の日、そして、八月十五日の終戦記念日。我が国日本では、夏はあの太平洋戦争の記憶を振り返る季節でもある。そんな真夏のとある日、私はひょんな事情から、かねてより訪ねてみたかった鹿児島県知覧町をひとり訪れることになった。ご存知の方も多いと思うが、知覧町と言えば、太平洋戦争末期、劣勢だった戦況を反転させるべく、人類史上類のない爆弾を抱えた飛行機もろとも敵艦に体当たりした特攻隊の資料が展示されている知覧特攻平和会館のある街である。ローカルバスを乗り継いで、私がその場所にたどり着いたのは、じっと立っているだけでも汗がにじみ出るような暑さの八月の午後だった。
そこには、死が確実な片道だけの燃料を積んだ戦闘機に乗って、桜島に昇る朝日を背に沖縄に向かった青年たちの勇ましくも悲しい辞世の句が所狭しと展示されている。まだ二十歳前後の彼らが飛び立つ前に家族に残した遺書の数々に、私は泣きながら館内を歩いた。父母への感謝とお詫び、兄弟たちへの思い、妻や恋人への惜別の言葉、そして、故郷に残してきた幼い子どもたちへの言葉。特攻隊員として太平洋に散った千三十六名の青年たちの、時が今ならば青春を謳歌しているはずの前途ある青年たちの、誇りと無念に満ちた切ないほどの壮絶な思いに圧倒されながら、私は閉館まで時を過ごした。
最も悲しかったのは、出撃前日に撮られた写真の中で、死を目前にしているとは思えないような無邪気な笑顔を彼らが見せていることである。特攻の母と呼ばれた鳥濱トメさんの証言によれば、一人として逃げ出す者はいなかったそうだ。もしかすると彼らの中には、いづれ日本が負けることを感じていた隊員もいたのかもしれない。それでも彼らの命と引き換えに行う特攻が敗戦後の日本復興の時に多くの日本人に勇気と誇りを与えることだけを祈って若い命を捧げたという。誰も恨まず、文句も言わず、ただ感謝だけを言葉にして、遺骨さえ拾ってもらえぬ南の海に笑顔で飛び立ったのである。
今でこそ「なでしこ」と言えば女子サッカー日本代表を意味しているが、特攻隊員たちの身の回りの世話をしていた知覧高等女学校三年生の勤労女子学生が「なでしこ部隊」と呼ばれていた事実を知る人は少ない。
成人を迎える若い人たちに、人生の節目として「知覧」を訪ねることをお勧めしたい。
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