53歳責任世代が浦添市の新しい明日を創る! 松本哲治「百花繚乱日記」ブログ

まつもとてつじのドタバタ市長奮闘記

大保川(たいほがわ)

ひだまり通信4月号「百花繚乱日記」より

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「大保川(たいほがわ)」

首里の街に小さなエコショップ「えころん」を一人で切り盛りしているUさんという女性がいる。
僕は、時々近くを通った時や少し疲れた時にふっと訪れ、彼女と他愛ないおしゃべりをしたり、
フェア・トレードのコーヒーだとか、無添加のせっけんだとか、無農薬で作ったお米などを購入している。

約一年くらい前だろうか、彼女に連れられて、大宜味村の大保川を訪ねたことがある。
娘二人も一緒にヤンバルの自然の中で沢歩きを楽しんだ。
雨で増水した川をロープを使って渡ったり、ライフ・ジャケットでプカプカ浮いてみたり、
見たこともない大きなクモやムカデにギャーギャーと騒ぎながら、娘たちも初めての手つかずの自然を楽しんだ。

陽の届かぬ深い森で聴く鳥たちの声、

雨湿りの風を飛ぶトンボ、

白く透明な木洩れ陽、

静かに頂を撫でる靄(もや)。

神々しい程の森の中で、僕たちは陽に暖められた岩に腰かけて川の水で作ったコーヒーを頂いたものだった。

「えころん」の片隅で僕らは一言二言近況報告をして、ぽつぽつとジョーダンを言っては笑いながら、商品とお金の交換をした。

帰り際、僕は彼女に、

「また一緒に川へ行こうね」と言った。彼女は思い出したように、

「松本さんと行ったあの川ねぇ、もう無くなっちゃったよ」とぽつりと言った。

「跡形もなく無くなっちゃったよ。ダムになっちゃうんだって」と静かに言った。

まるで独り言のようにさらっと、でも遠い遠い昔の思い出を話すように、風と話しているのかのようにつぶやいた。

「そうか・・・」と言って、僕も店を後にした。

川の中に腰まで入って見上げた空を思い出した。木々は揺れ、葉は鳴き、蔦は長く延びていた。
途切れることのない川の音に包まれながら、聞こえてくるのは鳥と子どもたちの声。
テナガエビがこちらを見つめている。
空から落ちてくる小さな雨粒が風に揺れながら僕の顔に当たった。それは、まるで天から降ってくるようだった。

帰り道、もう一度、Uさんの声が聞こえた気がした。

「あの川ねぇ、もう亡くなっちゃったよ。跡形もなく亡くなっちゃったよ」


Posted by 松本哲治 at 2009年03月26日   00:06
Comments( 2 )
この記事へのコメント
大保川楽しかったですよね。
ダムになることは聞いていたけど、ほんとうになくなったんですね。
そのダムになったところは見ておかないといけない、そんな気がしています。
Posted by 可愛可愛 at 2009年03月26日 23:07
あらら、可愛さん、
ご無沙汰しています。いろいろそちらも忙しそうですね。
コメントありがとう。あの川が今はないなんて・・・。
ヤンバルに向かって謝りたい気分です。
Posted by 松本 at 2009年03月27日 19:18
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