53歳責任世代が浦添市の新しい明日を創る! 松本哲治「百花繚乱日記」ブログ

まつもとてつじのドタバタ市長奮闘記

たけのこ

たけのこ

先日、事務所でたけのこを頂いた。

加工品はスーパーなどにありお料理としても使われているが、
沖縄ではあまりなじみのない食材で自分自身でたけのこを探して収穫したりすことはないし、
たけのこ狩りをした話も聞いたことはない。

久しぶりに目にする生のたけのこを見て、ある人を思い出した。

それは、僕がまだ学生としてアメリカで学んでいた頃の話だ。
僕の大学はカリフォルニアのサンフランシスコ近郊に位置していた。
そこは、比較的日系移民の多く暮らすところだった。
僕は大学院でジェロントロジー(老年学)を専攻していたので、
一年目の時にインターンとして日系移民の高齢者のソーシャルワークに関わっていた。

高齢者を対象としたソーシャルワークに関して、
まだ現場実践などなく右も左もわからないペーペーの学生だった僕が、
初めて担当となったのは大学近郊の住宅街でひっそりと一人暮らしをしていたおじいさんだった。

彼は岐阜県(僕の記憶が正しければ・・・)の出身で23歳の頃、アメリカに渡って来た。
そこで同じ日本からやってきた日本人女性と結婚、日本庭園の造園業に関わって生きてきた。
日本語はしっかりと覚えてはいたが、半分近くは英語が混じる移民一世独特の言葉を使っていた。

子どもはなく、2,3年前に妻を病気で失っていた。

妻を失い、男が一人暮らす自宅は、不潔なほどではないにせよ乱雑としていた。
それでも、若い頃から使っていた仕事の道具だけは、
使われなくなって久しい今でもきれいに整理整頓されていたのが印象的だった。

あまり訪問客のいない彼にとっての私は、日本の話ができる格好の話し相手だった。

彼からよくカリフォルニアに渡ってからの苦労話や仕事ぶりの話、妻の思い出話を聞かされた。
中流階級の住宅街で一人で暮らす彼の生活は、静けさと寂しさとで満ちていた。
仕事も引退し年金で暮らすカリフォルニアでの毎日は、妻や子どもが居ない彼にとっては、
埋めがたいほどの空虚なものであったに違いない。

インターン1年目が終わり、僕が彼を訪ねることができる最後の日は、朝から静かに雨が降っていた。

5月の雨だった。

彼は、裏庭にある竹林に僕を招いた。たけのこを採ろうとの提案だった。
土の中から小さく頭を覗かせているたけのこを見るのはその時が初めてだった。

鍬とスコップを使ってたけのこの採り方を僕に教える彼の横で、
僕は傘を差しながら時間が止まっているような不思議な感覚で彼を見つめていた。

止む気配もなくしとしとと降り続ける雨の中、風もなく静けさだけの竹林で、
僕らは黙ってたけのこを掘った。
3,4本も採ると、「あまり採っても食べられないからね」と彼は力なく笑った。

家に帰った後、きれいに洗って、生で食べた。
採りたてのたけのこを生で食べるのは初めてだった。
今の雨を吸ったみたいにみずみずしくてクリーム色のたけのこを二人で食べた。
お醤油を少しだけつけて食べた。

外は相変わらず静かに雨が降り続けていた。

「おいしいですね」と言う僕に、
彼は満足そうに微笑んでいた。

帰り際に玄関先で別れの挨拶をすると彼は、

「たけのこ、欲しかったらいつでも訪ねて来ていいよ」

と言った。


でも僕は、

あの日以来、

まだ彼を訪ねていない。


Posted by 松本哲治 at 2007年05月02日   16:52
Comments( 4 )
この記事へのコメント
今日は寝る前に
人間、『松本哲治』物語が読めて
ジーんと来た!
とても素晴らしい・・
その後、ご老人はどうなったのか?
とても知りたいです。
来年、一緒に尋ねてみないか?!
マジで!
Posted by 知念まっつぐ at 2007年05月02日 21:52
あまりにも良いお話なので初コメントです
ジーンときてしまいました
もし、本当に尋ねたらその後を教えてください(^_^)
私もとても知りたいです

MAWJ石川
Posted by いしえもん at 2007年05月03日 12:05
あまりにも良いお話なので初コメントです
ジーンときてしまいました
もし、本当に尋ねたらその後を教えてください(^_^)
私もとても知りたいです

MAWJ石川
Posted by いしえもん at 2007年05月03日 12:05
まっつぐさん、
その後どうなったのんか?僕もわからないですが、気にはなっています。
あれから10年以上が経過して、今も元気かな?
まだあの家に居るのかな?
僕の記憶では家の場所さえあやふやになっています。

いしえもんさん、
あらら、お久しぶり。元気?
そうですね、その後わかったらお伝えします。
では、また、定例会で。
Posted by お松 at 2007年05月07日 11:10
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